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第399号 1990(H2).12発行

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水稲に対する緩効性被覆肥料(LP100,LP100s)を利用した全量基肥施肥技術
その2 窒素吸収シュミレーションに及ぼす土壌窒素並びに施肥窒素の利用率について

山形県農業試験場 化学部
主任専門研究員 上野 正夫

Introduction

 前報において,全量基肥一発施肥技術を考える場合,目標収量を明確にすること。そのための窒素吸収パターンの設定と生育パターンをイメージ的に把握しておくこと。とくに,生育面で,初期生育をややセーブし,中期から後期にかけての葉色を従来よりやや濃く経過させ,有効茎歩合の高い,穂重感のある稲作りを目指すこととし,それに馴れることが重要と指摘してきた。

 ここでは,目標収量を得るための理想的な窒素吸収パターンにシュミレートさせるため,要因解析として,土壌窒素無機化量の予測技術,並びに,緩効性被覆肥料(LP100,LP100s)の溶出パターン特性,およびそれぞれの利用率について検討し,全量基肥一発施肥技術体系を提示した考え方について述べることにする。

2.水田における土壌窒素発現予測技術

 水田土壌の全窒素量は,おおよそ0.2~0.3%程度であり,これを10aに換算すると,200~300kgの窒素量に相当する。このうち,10~20%程度が水稲に有効な窒素,いわゆる可分解性有機態窒素量とみなされている。

 この可分解性有機態窒素は,乾土100g当たり20~60mg程度であり,この窒素量の一部が,稲作期間中にどんな機作(乾土効果,温度上昇効果,アルカリ効果等)で有効化するか,あるいは,いつの時期にどのくらいの量が無機化するかといった問題が研究されてきた。

 ここでは,水田土壌窒素発現のモデル化に際し,その発現機構として,速やかに無機化する画分(Noq)と緩やかに無機化する画分(Nos)に分けることにし,その合量を水田土壌のもつ可分解性有機態窒素量(No)とするモデルを考えた(図-1)。

 土壌窒素無機化情報は,春先の圃場の乾燥実態に応じて,土壌窒素無機化パラメータを選択し,日平均地温やアメダスメッシュの日平均気温との関数として,時期別土壌窒素無機化量を推定できるようになった。例として,山形県川西土壌(強グライ土壌)において春先の圃場乾燥状態が平年的な場合の無機化量を図-2に示した。

3.緩効性被覆肥料の溶出パターン特性

 緩効性肥料の溶出パターンを,圃場埋設法により検討した。圃場埋設法は,農試本場の無窒素区の圃場を用い,移植時にN成分で1~3g相当量の肥料現物を寒冷沙で包み,地下5~10cmの作土層に埋設した。それぞれ,培養期間は100日程度とし,その間,2連で10日おきに回収し,ケルダール分解により残存窒素量を測定し,start時の窒素量から溶出率を計算した。

 溶出結果を図-3に示したように,LP100の溶出率は,6/30で30%,穂揃期で70%,100日目で80%以上であった。一方,LP100sのそれは,6/30までは,ほとんど溶出せず,0~5%,その後急激に溶出し,100日目で80%以上の溶出率を示した。これらは,水中温度25℃の溶出パターン(理論値)とほぼ一致した。

4.緩効性被覆肥料(LP100)の窒素吸収特性

 全量基肥一発施肥技術体系を確立するため,15Nを利用して緩効性被覆肥料の窒素吸収特性を解明した。

 LP100区:LP100 7kgN/10a相当量の全量基肥一発施肥
   (15NLP100:T-N40%,15Natom% 3.02%)
 慣行施肥区:硫安で5kgN/10a(基肥),追肥1.5kg/10aを2回(-20日,-10日)
   (15N硫安:T-N21%,15Natom% 3.00%)

 その結果,施肥窒素の利用率を表-1に示した。基肥硫安窒素の利用率は,6月末頃にピークに達し,最終的には32.8%であった。一方,基肥LP100窒素の利用率は,基肥硫安に比較して,7月中旬までは低く経過するが,それ以降逆転し,穂揃期以降まで緩やかに上昇し,最終的に61.5%に達した。

 なお,硫安追肥の利用率は,-20日,-10日とも50%以上であった。この基肥硫安および追肥硫安窒素の利用率は,東北地域における既往のデータとほぼ一致した。そのため,基肥LP100窒素の利用率(61.5%)は,極めて高い値と考えてよい。

 また,LP100区(LP100の一発施肥)と慣行施肥区(基肥+追肥体系)について,由来別窒素吸収経過を図-4に示した。それによると,窒素吸収量は,基肥窒素の利用率を反映し,LP100区は慣行施肥区に比較して,6月末頃までは少なく経過する。しかし,生育中期は逆転し,穂揃期から成熟期にかけては,ほぼ同程度に経過した。

 以上の結果を考慮し,土壌窒素と施肥窒素の利用率を,下記に示した範囲で考えることにした。

5.土壌窒素と緩効性被覆肥料を利用した全量基肥一発施肥体系

 施肥設計樹立にあたって,最適窒素保有量を確保するために,水稲の生育ステージを2つ(1期:移植~6/30,2期:7/1~成熟期)に分けて考えた。

 生育ステージ1期は,土壌窒素発現量として,春先の圃場乾燥実態に応じて土壌窒素無機化量を推定し,利用率を考慮することにより吸収窒素量を推定し,不足する窒素量を速効性窒素で充足することにした。2期は,土壌窒素発現量として,地温上昇効果による発現量と下層土からの発現量,並びに,利用率を考慮することにより,吸収窒素量を推定し,不足する窒素量を緩効性被覆窒素で充足することにした。

 以上のことから,収量水準と地力差別に,全量基肥一発施肥技術における窒素吸収パターンを類型化し,施肥体系を提示した(表-2)。

6. Conclusion

 経済の安定成長と情報化時代の中で,21世紀は,「人間と自然との共存の時代」と目されている。この中で,農業の果たす役割も大きく,水田土壌の機能を活用した水田農業への期待が高まるものと思われる。とくに,農業生産の基本である窒素肥沃度の増強対策を生態系の中でサイクルとして考え,それをうまく活用しながら,農業の永続的発展を目指すことが重要と考えている。

 そのため,著者らは,農業の根幹である土壌の地力維持向上を図りつつ,水田土壌の窒素肥沃度に焦点をあて,水田特有の機能である地力温存型の性質を解析し,地力と施肥の合理的利用に基づいた高位安定生産,高品質の稲作を確立することを目指してきた。

 その中で,今回は,2回にわたり,農家の要望に答えうる実用的な施肥技術として,地域別,品種別に目標収量に応じた理想的窒素吸収パターンを作成し,それに誘導するための要因解析(緩効性被覆肥料の溶出パターン,土壌窒素の発現パターン,水稲による利用率)を進めながら,窒素吸収シュミレーションの精度を高め,全量基肥一発施肥技術としての施肥設計プログラミングの考え方を提示した。本施肥法が,施肥メニューの一つとして位置づけられ,農家に受け入れられる技術として定着すれば幸いである。

 

 

カルシウム欠乏による園芸作物の
生理障害の症状と対策及び展望(その2)

チッソ旭肥料株式会社
技術顧問 草野 秀

3.各作物のカルシウム欠乏症発生の要因

 (その1)で述べたカルシウム欠乏症の発症する作物の内でも,その需要性,被害程度等で問題となっている代表的作物について,欠乏症状の現われ方,発症しやすい条件等を既往の成果によって整理した結果は第2表のとおりとなった。

 表からは作物の種類が異なっても,障害の発生条件とその原因については,共通性のある次の諸要因が読みとれる。

①発症の時期は,その時期としては高温であり土壌は乾燥気味であるか,又は過湿から過乾へと急変のあったとき。
②多肥,特にアンモニア態チッソや加里が多施用されており,土壌溶液の塩類濃度が高いとき,又は逆に強酸性土壌であるとき。
③作物のカルシウム含量が少なく,チッソ,カリウム含量は多く,アンバランスとなっているとき。
④その時期の生育,肥大が旺盛である,又は根の吸収力が減退するとき。
⑤これらの障害の主要な原因は,作物のその部位へカルシウムの吸収移行が少ないために起こるカルシウム欠乏症である。またはチッソ,カリウム,マグネシウム等他成分とのアンバランス症である。

 但し,表中のジャガイモについては主因は病原菌であり,表中では異分子である。唯,この作物もカルシウムの吸収量は多く,第1図には示さなかったが同図の指数では40となる。多収とするには土壌に石灰資材を施用する必要があるが,そうか病は石灰多用で多発するため,別途の対策が必要となる。

 前記共通性のある要因は視野を変えてみると,
①土壌の石灰含量が過少か過多の場合
②土壌水分が過乾か過湿の場合
③作物生育としては根の活力減退か,地上部又はその部位附近の生育が旺盛の場合
となり,いずれも各作物にとっては極端な条件であり,正常でない栽培・環境条件下で発症していることもうかがえる。

4.障害への対策技術の現状

 これら作物の障害の防止法は,その原因が発症時点より可なり前に起こっている場合が多いため,病害虫防除の薬剤散布とは多少趣を異にしている。発症してからでは遅いことになり,予防法が対策の主流であろう。

 基本的には第2表に示された諸要因と原因に対して,適当な対応策を講ずればよいことになる。そのため,同表の各作物についてとられている対策の現状をまとめて第3表に示した。

 表から共通性のある対策を読みとると次の諸事項が挙げられる。

①適時に適量のかん水等をして,特に発症に関係ある時期の土壌水分状態を良好に維持する。
②チッソ,加里肥料を減肥し,他方石灰資材を施用して,各成分間のバランスを良くする。
③地温,気温,作物体温を適温に下げる対策をとる。
④加里成分の少ない完熟堆肥を施用し,緩衝能等地力を向上させる。
⑤塩化カルシウム,蟻酸カルシウム等の0.5%程度の溶液を発症しやすい部位や葉面等に散布する。
⑥抵抗性のある品種や台木を導入する。

 これらの対策は単一な事項で障害を可なり軽減させることの出来るものもあるが,各要因は相互に関連することが多いため,総合的に対応することが必要であろう。

 但し,表中のハクサイ及びキャベツ等結球性の野菜類では前記の石灰溶液の葉面散布は新葉への付着がないため,その効果は認められていない。

 また,ナシ,リンゴ等の果実では,着果の上下位置等で果皮のカルシウム含量に著しい差があり,発症していない果実のカルシウム含量が,発症している他位置のカルシウム含量より少ない場合のあることが知られている。このため,他の作物の単純なカルシウム欠乏による症状とは区別して,チッソ,カリウム等他成分とのバランス関係を重視した対策が必要とされている。

 またリンゴでは蟻酸カルシウムの散布により,単にビターピットの障害の軽減だけでなく,伸長抑制,色づき,貯蔵中の油脂上りの抑制等ポストハーベストにも効果のあることが注目されている。

5.カルシウム欠乏症の予防についての展望

 好カルシウム性の作物でカルシウム欠乏症が出やすいのは確かであるが,同じ作物でも障害の全く出ない圃場,障害の少ない年度,農家等のあるのも事実である。これらの優良事例の土壌等の環境条件,施肥等の栽培条件等を解明し,その条件に合わせる様に対策を取ることで,大部分の障害は予防出来ることとなる。

 前記の6項目の諸対策を総合的に実施すれば,障害は可なり軽減され得るはずであろう。なお,表示の各作物は連作の割合の多い作物であり,表記はしなかったが,禾本科作物等カルシウム吸収量の少ない作物との輪作体系の確立も重要な対策とされている。

 将来の展望としては,適地適作を前提とした適水分維持管理のための個人,団体等による灌排水施設等の基盤整備,養分のバランスを適正化するための土壌・作物栄養診断技術の確立と普遍化,土づくり,等を一層充実させることが必要である。石灰剤溶液の葉面散布も対症療法としてではなく,予防的に利用すべきであろう。

 しかし結球葉菜類では効果は認められず,他の作物の場合も附着性,散布後の降水による効果の減退,散布労力等の問題もあり,決め手とはならない。リンゴでは果実中のカルシウムのうち,その年に根から吸収したカルシウムは約1%で,99%は貯蔵カルシウムに依存しているとの推定もある(清藤,1990)。やはり根からカルシウムを吸収させるのが根本的な解決法となろう。

 はじめに述べたが,わが国では土壌中に充分量の石灰が含まれていても,作物はそれを吸収できずに欠乏症をだしている事例が増加している。これは多肥等により土壌溶液の塩類濃度が過剰なためであり,この様な状態下ではカルシウムの吸収が抑制されることは既に明らかにされている(嶋田,1967)。

 本冊子「農業と科学」第390号(1990)では武井氏もその理由として,土壌消毒によりアンモニア態チッソが多くなるため,カルシウムの吸収量が少なくなること,土壌溶液の滲透圧が高いと,石灰濃度が高くても吸収は阻害されること,石灰濃度が高く溶液の滲透圧が低いほど,吸収は旺盛となること,等を述べている。

 この様な土壌も視野に入れ,カルシウム欠乏を起こしやすい作物も対象として,チッソ旭肥料(株)では新開発資材として被覆硝酸石灰の検討を始めている。硝酸石灰は潮解性があるため,わが国では肥料としてあまり流通していないが,被覆により取り扱いやすく,硝酸態チッソとカルシウムを適濃度で継続的に溶出させる機能を持たせている。

 大部分の園芸作物は硝酸態チッソを好み,カルシウムとは相乗的に吸収されるため,他の肥料よりカルシウムの吸収量を増加させることは容易に推察できる。前記武井氏のデータでもハクサイの例で証明されている。この新資材は土壌溶液の塩類濃度を高めないため,本邦で増加しているカルシウムが充分にあっても,カルシウム欠乏を起こす土壌での障害軽減防止対策に役立つものと思われる。

 この資材は硝酸態チッソ12%,石灰(CaO)23&の成分保証の肥料である。現在,各作物に最適なカルシウム量と,他成分との吸収バランスを良くするための他の肥料との配合法,施肥法等は未解決であり,第2表のうちの野菜類について平成2年度から全農で組織的な試験が開始されている。

 理論的にはカルシウム欠乏症の軽減防止に役立つことの明らかなこの資材は,実証的にも圃場試験データの集積により,各作物ごとに次第に明らかとなってくるものと期待される。